CONTENTS
概要
実施事業
研究報告
リンク
  長崎大学重点研究課題「骨格系の基盤研究拠点形成」
長崎大学歯学部歯周病基盤研究センター
 
 
研究報告
 
HOME研究報告>2008年度「口腔環境制御研究」報告:北海道大学歯学部

2008年度「口腔環境制御研究」報告: 北海道大学歯学部
 
 我々は現在,口腔環境制御研究に関して以下の三つの研究テーマで研究している.
  1.微生物の認識と貪食のクロストーク
  2.自然免疫と口腔感染症
  3.口腔微生物由来リポタンパク質の生物活性
 これらのテーマに関する研究業績を以下で説明する.

<微生物の認識と貪食のクロストークに関する研究成果>
 フィトアレキシン/ポリフェノール複合体であるresveratrolの薬理学的効果には抗癌作用、抗炎症作用ならびにストレスに対する抵抗性の増強作用が含まれることが多くの研究で示されている。本研究では、Toll様受容体(TLR)2のリガンドである口腔マイコプラズマ由来リポペプチドFSL-1刺激時において、マクロファージによる細菌貪食ならびに転写因子NF-kBの活性化にresveratrolが影響を及ぼすかを検証した。THP-1細胞やRAW264.7細胞によるE. coliS. aureusのいずれの貪食活性もFSL-1の刺激の有無に関係なく濃度依存的にresveratrolによって阻害された。FSL-1刺激時におけるTLR2安定的発現HEK293細胞のNF-kB活性もまたresveratrolによって阻害された。Resveratrolは、また、遺伝子導入細胞におけるNF-kBのp65サブユニットの核移行も阻害し、THP-1細胞やRAW264.7細胞におけるTNF-の産生も阻害した。最近、TLR2媒介性のシグナル伝達経路はスカベンジャー受容体やCタイプレクチン受容体などの食作用受容体のmRNAの発現量を増強することが報告されている。本研究でも、FSL-1がmacrophage scavenger receptor 1、CD36、DC-SIGNならびにDectin-1といった食作用受容体のmRNAの発現量の増強を惹起することを明らかにしているが、同増強作用はresveratrolによって阻害された。さらに、DC-SIGN安定的発現HEK293細胞におけるDC-SIGNの発現量もresveratrolによって減少し、同細胞株の貪食活性もresveratrolによって有意に阻害された。
 このように、本研究からresveratrolは食作用受容体の発現とNF-kB 活性を抑制することによって細菌貪食を阻害することが示唆された。

1)ワイン等に含まれるResveratrol resveratrolは食作用受容体の発現とNF-kB 活性を抑制することによって細菌貪食を阻害するという研究成果をAntimicrob Agents Chemother. 52(1): 121-127, 2008.に発表した.
 2)TLR2と貪食受容体DC-SIGNの細胞膜での存在状況ならびにE.coliの貪食に関わる部位を同定し,Biochem. Biophy. Res. Comm. 377 (2): 367-372, 2008に発表した.

2)貪食受容体DC-SIGNのシグナルはToll-like receptor 2シグナルを阻害する
 樹状細胞(DC)に特異的に発現するC-typeレクチンであるDC-SIGNは、DCとT細胞や内皮細胞との結合を媒介する接着レセプターとして、また、病原体や自己抗原の糖構造を認識するパターン認識レセプターとして自然免疫ならびに獲得免疫において様々な役割を果たしている。本研究では、Toll-like receptor 2 (TLR2)によるリガンド認識を及ぼすDC-SIGNの役割について検討した。
 HEK293細胞にTLR2およびDC-SIGNを遺伝子導入し、免疫沈降法でTLR2とDC-SIGNの会合を調べた。また、A/J mouse由来の樹状細胞であるXS106細胞(Toledo大学Dr.Takashimaより分与)を用い、フローサイトメトリーおよびリアルタイムPCR法でTLR2およびSIGNRの発現を調べた。サイトカインの産生はリアルタイムPCR法で、また、NF-κB活性はルシフェラーゼ・レポーター法で評価した。TLR2とDC-SIGN下流のシグナルによるタンパク質のリン酸化は二次元電気泳動で展開した後、ウエスタンブロッティングで評価した。
 TLR2はDC-SIGNのオリゴマーと複合体を形成していた。XS106細胞にはTLR2およびSIGNRが発現しており、FSL-1の刺激でIL-6, TNF-a等のサイトカインの産生が増強したが、その活性はSIGNRのリガンドであるMan9(GlcNAc)2 (Man9)ならびにManLaM刺激によって有意に減弱した。また、FSL-1刺激によりNF-kBの転写活性がFSL-1濃度依存的に増強したが、Man9の刺激によって活性増強は有意に阻害された。XS106細胞のFSL-1あるいはMan9の単独刺激で分子量30kDaのタンパク質のリン酸化が減弱した。
 以上の結果から、DC-SIGNのシグナルはTLR2のシグナルを抑制するものと推測される。

<自然免疫と口腔感染症に関する研究成果>
  「口腔カンジダ症とTLR発現」ということで,北大病院の口腔カンジダ症患者の末梢血単核球でのTLR発現レベルを健常者と比較している.現在,30名程度のデータではあるが,口腔カンジダ症患者の末梢血単核球でのTLR発現レベルは健常者に比べて有意に低いことを明らかにしている.なお,本研究は倫理審査委員会で承認された研究である.

<口腔微生物由来リポタンパク質の生物活性に関する研究成果>
 Th1応答を誘導するTLRリガンドが抗ガン物質として研究されているが,Th2応答を誘導するTLRリガンドの抗ガン作用はほとんど研究されていない.そこで,本研究では,Th2応答を誘導するTLR2リガンドである口腔マイコプラズマ由来リポペプチドFSL-1が,C57BL/6 マウス由来の繊維腫であるQRsP腫瘍細胞のin vivoにおける増殖にどのような影響を及ぼすかを調べた. FSL-1とQRsP由来ガン抗原と一緒に予め免疫した後,QRsP腫瘍細胞を接種した場合には腫瘍の増殖が抑えられ,また,マウスの生存率も増加した.この抗腫瘍活性には,QRsP腫瘍抗原特異的な細胞傷害性T細胞,QRsP腫瘍抗原特異的な抗体産生によるNK細胞のよるADCC,さらに,所属リンパ節における制御性T細胞数の減少による免疫抑制活性の減弱が関与していることが示唆された.しかしながら,FSL-1のみを単独で免疫した場合は,逆に,腫瘍の増殖が促進された.この腫瘍増殖促進活性には所属リンパ節における制御性T細胞数の増加による免疫抑制活性の増強が関与していることが示唆された.また,FSL-1の抗腫瘍活性ならびに腫瘍増殖促進活性はTLR2のノックアウトマウスでは観察されなかった.
 本研究では,TLR2リガンドであるFSL-1は腫瘍抗原と予め免疫した場合は抗腫瘍活性を,単独で免疫した場合は腫瘍増殖促進活性を示すこと,また,それらの活性に制御性T細胞が関与していることが明らかにされた.
 本研究は「Roles of regulatory T cells in TLR2-mediated anti- and pro-tumor activities of the mycoplasmal lipopeptide FSL-1 」というタイトルで国際誌(J. Immunol)に現在投稿中である.

【発表論文】
  1. Mitsuhiro Iyori, Makoto Ohtani , Akira Hasebe, Yasunori Totsuka and Ken-ichiro Shibata. A role of the Ca2+ binding site of DC-SIGN in the phagocytosis of E. coli.
    Biochem. Biophy. Res. Comm. 377 (2): 367-372, 2008
  2. Mitsuhiro Iyori, Hideo Kataoka, Haque Mohammad Shamsul,  Kazuto Kiura, Takashi Nakata, Akira Hasebe, Motoaki Yasuda, and Ken-ichiro Shibata. Resveratrol modulates phagocytosis of bacteria through an NF-kB-dependent gene program. Antimicrob Agents Chemother. 52(1): 121-127, 2008.
  3. Into T., Inomata M., Nakashima M., Shibata K., Hacker H., and Matsushita K. Regulation of MyD88-dependent signaling events by S-nitrosylation retards Toll-like receptor signal transduction and initiation of acute-phase immune responses.
    Mol. Cell. Biol. 28(4): 1338-1347, 2008.

【受賞】
 歯科基礎医学会で微生物学分野のポスター賞:「貪食受容体DC-SIGNのシグナルはToll-like receptor 2シグナルを阻害する」に関する研究で大学院生の大谷誠君が受賞した

 
国立大学法人長崎大学