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2009年度「口腔環境制御研究」報告: 北海道大学歯学部
 
 我々は現在,口腔環境制御研究に関して以下の三つの研究テーマで研究している.
  1.微生物の認識と貪食のクロストーク
  2.自然免疫と口腔感染症
  3.口腔微生物由来リポタンパク質の生物活性
 これらのテーマに関して現在行っている研究内容ならびに成果を以下で説明する.

貪食受容体DC-SIGNシグナルによるToll-like receptor 2シグナルの阻害にSOCS-1が関与している>
 
樹状細胞(DC)に特異的に発現するC-typeレクチンであるDC-SIGNは、DCとT細胞や内皮細胞との結合を媒介する接着レセプターとして、また、病原体や自己抗原の糖構造を認識するパターン認識レセプターとして自然免疫ならびに獲得免疫において様々な役割を果たしている。本研究では、Toll-like receptor 2 (TLR2)によるリガンド認識を及ぼすDC-SIGNの役割について検討している。
昨年度,TLR2はDC-SIGNのオリゴマーと複合体を形成していること,さらに,マウス樹状細胞XS106を用いて,TLR2のリガンドであるFSL-1の刺激で産生されるIL-6,がSIGNR (マウスのDC-SIGNホモログ)のリガンドであるMan9(GlcNAc)2 (Man9)ならびにManLaM刺激によって有意に減弱することを報告した。
今回,この抑制にsuppressor of cytokine signaling (SOCS-1)が重要な役割を果たしていることを明らかにしつつある。すなわち,FSL-1ならびにManLaM刺激でSOCS-1の発現が増強されることを明らかにした。SOCS-1はTLR2のアダプター分子であるMalの分解を促進することが明らかにされていることから,FSL-1とManLaM刺激でMalの分解が起こっているかどうかを検討している。

<口腔細菌による免疫抑制惹起機構の解明>
 制御性T細胞 (Treg)は1995年にその存在が確認され,現在では胸腺で産生される自然発生性Treg(natural Treg, nTreg)と末梢で誘導される誘導性Treg (inducible Treg, iTreg)の存在が明らかにされている。最近,nTregがToll-like receptor 2 (TLR2)を発現していることが報告された。そこで,我々はnTregをC57BL/6マウスの脾臓から単離し,口腔マイコプラズマ由来リポペプチドFSL-1(TLR2リガンド)がnTregの増殖を促進することを明らかにしている。
我々は,口腔常在菌はTregの増殖ならびに免疫抑制活性を増強する活性を有しているために,排除されずに常在できるのではないかという仮説をたてた。我々は最近,野生型のStreptococcus mutans ならびにS. gordoniiTLR2リガンドであるリポタンパク質の合成の初発酵素であるlipoprotein glyceryltransferaseをノックアウト(Δlgt)した菌株を作成した。そこで,上記の仮説を証明するために,nTregを分離し,野生型とΔlgtの菌株で刺激し,増殖ならびに免疫抑制活性に及ぼす影響を調べる研究を企画した。
 nTregをC57BL/6ならびにTLR2ノックアウトマウスの脾臓から単離し,脾臓細胞からCD4+CD25+ nTreg isolation kitを用いてnTregを分離した。その際に分離されるCD4+CD25- T細胞をヘルパーT細胞(Th)とし,それ以外の細胞分画をマイトマシン処理して抗原提示細胞(APC)として使用した。
まず,S. mutans (Sm)ならびにS. gordonii(Sg)の野生株(Smwt とSgwt)とΔlgt 株(SmΔlgt とSgΔlgt)で上記のnTregを48時間刺激した後,H3-thymidineの取り込みでnTregの増殖を調べる。その結果,野生株はΔlgt 株よりも強くnTregの増殖を促進することがわかった。
次に,Thならびに APC存在下でanti-CD3eで処理して惹起されるThの増殖に及ぼすnTregの影響をSmwt,Sgwt,SmΔlgt あるいはSgΔlgtの刺激の有り無しで調べた。その結果,4菌株とも,anti-CD3 eで惹起されたThに対するnTreg増殖抑制活性を促進することはなく,逆に弱めることがわかった。

<クラスリン依存的なTLR2リガンドFSL-1の取り込みはTLR2ではなくCD14とCD36に依存的である>
 我々は、これまで口腔細菌の一つであるMycoplasma salivarium細胞膜から分子量44kDaのリポタンパク質を精製し、その活性部位であるN末端リポペプチド部位の構造を明らかにした後、その構造をもとに化学的に合成したジアシルリポペプチドをFSL-1と名付け、種々の生物活性ならびにToll-like receptor (TLR)による認識機構等について研究している。FSL-1は宿主細胞のTLR2とTLR6のヘテロダイマーで認識され、そのシグナルは転写因子NF-kBの活性化に導かれ、種々の炎症性サイトカインの産生を誘導する。しかしながら、TLR2とTLR6で認識された後どのように処理されるかはこれまで不明のままであった。そこで、本研究では,FSL-1がTLR2によって認識された後に、どのように処理されるかを分子レベルで明らかにすることを目的とした。
 FSL-1の取り込みに及ぼすナイスタチン(カベオラならびにリピッドラフト依存的な取り込みの阻害剤)、クロルプロマジン(クラスリン依存的取り込みの阻害剤)、あるいはメチル-β-サイクロデキストリン(リピッドラフト依存的ならびにクラスリン依存的取り込みの阻害剤)などのエンドサイトーシス阻害剤の影響、ならびにRNAi法により、FSL-1の取り込みはクラスリン依存的であることが示唆された。クラスリン依存的な取り込みが受容体依存的であることから、FSL-1のクラスリン依存的な取り込みにはTLR2が受容体として関与していると考えた。しかしながら、FSL-1とTLR2は細胞表面では結合するが細胞質内小胞では共局在せず、さらに、FSL-1はTLR2遺伝子欠損マウス由来の腹腔マクロファージでも、正常マウス腹腔マクロファージと同様に取り込まれることがわかった。これに対して、FSL-1認識後の細胞表面におけるTLR2の発現は減少していた。これらのことから、FSL-1の認識後にTLR2が細胞内に取り込まれるが、FSL-1の取り込みにはTLR2は受容体として機能しないことがわかった。そこで、FSL-1の取り込みにTLR2の補助レセプターであるCD14とCD36が関与するのではないかと考えた。HEK293細胞は FSL-1を取り込まなかったが、CD14あるいはCD36を発現するHEK293細胞はFSL-1を取り込むことがわかった。さらに、これらの細胞におけるCD14ならびにCD36のRNAi法によりそれぞれの細胞表面における発現を減少させるとFSL-1の取り込み活性も減少した。
 以上のことから、FSL-1はクラスリン依存的な経路でマクロファージに取り込まれ、その取り込みにはTLR2ではなくCD14とCD36が重要な役割を果たしていることがわかった。


【発表論文】
  1. Into T, M Inomata, Shibata K and Y. Murakami. Effect of the antimicrobial peptide LL-37 on Toll-like receptors 2-, 3- and 4-triggered expression of IL-6, IL-8 and CXCL10 in human gingival fibroblasts. Cell Immunol. 264:104-109, 2010.
  2. Haque M. Shamsul, Akira Hasebe, Mitsuhiro Iyori, Makoto Ohtani, Kazuto Kiura,  Diya Zhang, Yasunori Totsuka and Ken-ichiro Shibata1*. The TLR2 ligand FSL-1 is internalized via clathrin-dependent endocytic pathway triggered by CD14 and CD36 but not by TLR2. Immunology, 130: 262-272, 2010.
  3. Nishioka T, Miyai Y, Haga H, Kawabata K, Shirato H, Homma A, Shibata K, Yasuda M. Novel
    function of transcription factor ATF5: blockade of p53-dependent apoptosis induced by
    ionizing irradiation. Cell Struct Funct.34(1):17-22, 2009.

【学会発表】
<シンポジウム>
  1. 長谷部 晃.Mycoplasma arthritidis による関節炎―MAM & リポタンパク質.2009年6月4~5日.札幌.日本マイコプラズマ学会第36回学術集会
  2. 柴田 健一郎.マイコプラズマ由来リポタンパク質・リポペプチドのユニークな生物活性.2009年6月4~5日.札幌.日本マイコプラズマ学会第36回学術集会講演要旨集:27.
<ワークショップ>
  1. TANIZUME Naoho, IYORI Mitsuhiro, OHTANI Makoto, HASEBE Akira, SHIBATA Kenichiro. Toll-like receptor 2シグナルにおけるSrcファミリーキナーゼLckの役割/Roles of the Src family kinase Lck in Toll-like receptor 2 signaling. 第39回日本免疫学会総会・学術集会. 2009年12月2~4日.大阪.


【国際学会発表】
  1. Mohammad Shamsul Haque, Akira Hasebe, Mitsuhiro Iyori, Kazuto Kiura, Makoto Ohtani and Ken-ichiro Shibata. How is the diacylated lipopeptide FSL-1processed after recognition by TLR2 ? The 96th Annual Meeting of The American Association of Immunologists. 2009年5月8~12日. Seattle, Washington, USA. J. Immunol. 182 (Immunology 2009 Meeting Abstracts): 135.1, 2009.
  2. Ken-ichiro Shibata, Kazuto Kiura, Akira Hasebe, Mitsuhiro Iyori, Mohammad Shamsul Haque and Makoto Ohtani. Anti- and pro-tumor activities of the TLR2 ligand FSL-1. The 96th Annual Meeting of The American Association of Immunologists. 2009年5月8~12日. Seattle, Washington, USA. J. Immunol. 182 (Immunology 2009 Meeting Abstracts): 40.2, 2009.
  3. Makoto Ohtani, Akira Hasebe, Mitsuhiro Iyori, Haque Shamsul Mohammad, Yasunori Totsuka and Ken-ichiro Shibata. Downregulation of the TLR2-mediated signal by the DC-SIGN ligand Man-LAM. The 96th Annual Meeting of The American Association of Immunologists. 2009年5月8~12日. Seattle, Washington, USA. J. Immunol. 182 (Immunology 2009 Meeting Abstracts): 135.14, 2009.

 
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