長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 先進口腔医療開発学分野

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活動報告

ドイツ・ビュルツブルグ滞在中の井隆司先生から留学記をいただきました!

2019.4.4
ユリウス-マキシミリアン大学ヴュルツブルグ(ドイツ)留学記

井 隆司
Institute of Anatomy and Cell Biology 解剖生物学教室
長崎大学医歯薬総合研究科 顎口腔再生外科学分野

 皆様、ご無沙汰しております。昨年4月からドイツに研究留学開始して早いもので1年経とうとしております。この節目の機会に近況報告させていただければと思います。

 私がお世話になっている研究室はユリウス-マキシミリアン大学ヴュルツブルグ解剖生物学教室Institute of Anatomy and Cell Biology, Julius-Maximilians-University Wuerzburgです。ヴュルツブルク大学と長崎大学は,1996年に両大学で学術交流協定が締結され、これまで研究者交流、学生交流、共同研究、講演・シンポジウム等の活発な交流が行なわれてきました。その縁もあり、共同研究実施のためヴュルツブルグ大学において留学させていただけることとなりました。

 ヴュルツブルグは南ドイツのバイエルン州に属しており、人口約12万人(長崎の人口でいうと諫早市ぐらいの規模)、世界遺産レジデンツをはじめとしてフッセンまで続くロマンティック街道のスタート地点にもなるドイツ有数の観光地です。1年を通して天候も過ごしやすく(冬は寒いですが、積雪はまれ)、ワインフェスティバルや移動遊園地、クリスマスマーケットなど催しものが開催され、年中多くの人でにぎわっています。特に旧市街地とマリエンブルグ要塞を結ぶマイン橋では人々がワイン片手に談笑し、音楽に合わせてダンスをしているなど、陽気なドイツ人を身近に感じることができ、お気に入りのスポットです。

 ドイツの方はまじめで議論好きですが、一方でプライベートを大変重視しています。プライベートを充実させるために、仕事に精を出すというスタンスであり、仕事に対して日本とは異なった価値観を感じる場面が多々あります。また日曜日はきっちり休暇に充てるという方針のもと、スーパーやデパートをはじめお店は完全に休業しています。そのため土曜日までに日曜日分の食材を購入することは必須です。ドイツ人の日曜日の過ごし方はというと季節の良いときは草原に寝転がり読書をしたり友人との会話を一日中楽しんだり、料理を持ち合って家でパーティーをするというような過ごし方をしています。またカルチャーショックだったことは、飛行機や列車などの公共機関の遅れ(60-90分はざら)やボイコットが理由での運休は珍しくなく、皆はそれに対して「しょうがないね」という平常心でいることです。またバリアフリー化が進んでいる日本ですが、ドイツでは列車の出入口が段差になっており、バリアフリーが進んでいるとは決して言えません。そのため高齢者などの方が困惑するのではないかという場面でも必ず周りの人が自然と手伝っており、人の協力も見越したインフラ計画も素敵で合理的だと感じました。
  • マインベルグ要塞を背景に
  • マイン橋はいつも賑やか
  • 雪景色
 さて肝心の研究ですが、「唾液腺組織における血管壁常在細胞と血管新生のメカニズム解析」を両大学の共同研究プロジェクトとして取り組んでいます。唾液腺組織をはじめとした様々な組織には、血管壁に様々な細胞(血管内皮前駆細胞、間葉系幹細胞、マクロファージなど)が常在しており、それら細胞が血管新生時において果たす役割を解明することが目的です。解剖学の教室であることからも組織染色に長けた職人のような技官さんは多数いらっしゃり、そのなかの最ベテランの方(勝手にドイツでの母と呼ばせていただいています)に昨年はみっちり教えていただきました(学生時代のように怒られながら…)。染色技術もさることながら共焦点顕微鏡などの機器も充実しており、その染色組織の解像度に驚きの連続でした。また留学後、個人的にいただいた「iPSを利用した唾液腺オルガノイド作成の試み」という課題も同時並行で実施しております。かなりチャレンジングな内容ではありますが、育てたiPSが毎日のように違った現象を見せてくれることが刺激になっています。

 また毎週全体ミーティング(40-50人程度参加;ドイツ語)と2週間ごとのグループミーティング(10人程度参加;英語)が行われており、私はstem cell groupに所属しておりそのグループミーティングで毎回研究の進捗状況を報告しています。英語で大変苦労しているのですが、留学開始時には飛び交っている会話がドイツ語なのか英語なのかさえもわからないままそのうち集中力がきれて油断したところに意見を求められるという困った状況に出くわすことも多々ありました。生活を初めてすぐに1時間程度の研究のプレゼンテーションをさせていただく機会があったのですが、つたない英語・ジェスチャー・愛想とあらゆる手で説明しましたが、今でもポカンとしている参加者の顔が忘れられません。苦手意識のある英語ですが、相変わらず上達したとはいえませんが、上手な英語を話すことを意識するよりも伝えたいことをつたない言葉を重ねてでも伝えようと努力しております。

 留学の意義についてですが、留学したそれぞれの人によって異なるような気がします。私自身の場合は海外生活においてビザ申請をはじめ、住居の手配・契約、銀行口座の開設、研究遂行など、味わったこととの無い苦労の連続であり、その中で自分が他人から受けた親切のありがたさ、他人をおもいはかることを、この歳になってですが身をもって実感できています。そして研究に真摯に没頭できる貴重な時間はかけがえのないもので、純粋な心で研究に向き合うことができています。残りの留学期間を何もやり残したことがないといえるくらい充実させることが今の私の目標です。

 末筆ではございますが留学の機会を与えてくださった朝比奈泉教授、住田吉慶准教授、大学関係者の方々および医局員の皆様に深く感謝申し上げます。

(2019年4月6日)

  • ランチに名物ナマズバーガー
  • クリスマスマーケット
  • 世界遺産レジデンツ
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