教授挨拶

患者さんのためになる、優しい最良の口腔外科医療をめざして 朝比奈泉教授
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科顎口腔再生外科学分野 教授
長崎大学病院 顎口腔再生外科室 室長
顎・顔面・口腔インプラントセンター センター長
朝比奈 泉

 口は喋る、食べるという、生きていく上で欠かせない機能をつかさどる臓器です。この機能に障害が生じればQOLが大きく損なわれることは言うまでもありません。私たちは疾病や傷害で損なわれた口腔の機能を審美性も含め回復・再生して「患者さまの希望に応じた最良の医療を提供し、質の高い豊かな生活を送るためのサポートをする」ことを目標にしています。また、この長崎の地において地域の先生方と密に連携し、日本における最新、最良の医療を提供することが、私たちの使命であると考えています。

 私たちの担当する口腔外科は、歯科の中で虫歯や歯周病そのものの治療や入れ歯の作製以外の、口や顎の様々な疾病の治療に当たっています。例えば、虫歯や親知らずが原因で細菌が感染して顔が大きく腫れ上がる炎症性疾患、顎の中にできる嚢胞(ふくろ)や腫瘍、そして口の中にできる「がん」の治療、その他、歪んでいる顎の形を治す顎変形症や顎の関節の異常(顎関節症)の治療、そしてインプラント治療など、口腔という狭い領域ではありますが、その守備範囲は多岐にわたっています。

 私たちは、さまざまな疾患の治療に当たっていますが、それぞれの分野で優れていると思われる治療法を積極的に取り入れています。例えば、口腔がんの治療法としては、九州ではいち早くHFT法による超選択的動注化学療法を取り入れました。今までは大きく切り取らなければならなかったがんを、切らずに機能を温存しながら治すことが可能になってきました。また表層だけに存在するがんに対しては、以前から当教室で取り組んでいる光線力学療法を用い、がんを切らずに治す、患者さまに優しいがん治療を目指しています。IT技術も積極的に取り入れるようにしており、顎変形症の治療では、全例にコンピューター・シミュレーションを行い、できるだけ精度の高い手術ができるように心がけています。またやインプラント治療に際しては、シミュレーションはもちろんのこと、サージカルガイドを使ったフラップレス・オール・オン・4など最先端の治療を取り入れています。そして最も力を入れているのが再生医療を導入した歯槽骨・顎骨の再生療法です。できる限り患者さまの負担が小さく、理想的な形態の骨を再生するために細胞や成長因子を応用した治療法の開発を目指して研究を進めています。そして安全性が高い治療法に関しては、倫理委員会の承認を得て積極的に臨床研究を進めています。

 このように最先端の治療を取り入れていますが、何よりも大事にしているのは「患者さまのお話をよく伺うこと」から始まる、人と人との繋がりを大切にした暖かみのある医療の実践です。とかく大学病院は敷居が高いと思われがちですが、口や顎に関してお悩みがあれば、いつでもいらしていただければと思います。またより良い医療を実現するために、患者さまからのご意見、ご希望など、広くお声をいただければ幸いです。