パンピングの実際 | |
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開口度は約10mmで、高度な開口障害を認めます。また、下顎切歯路は開口時左側へ約5mm変位します。 |
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MRI画像にて左顎関節円板の前方転移を認め、いわゆるクローズドロックの状態です。右顎関節には異常は認めません。 |
パンピングは口腔内処置と違い、完全に清潔操作です。日常の歯科診療において、口腔内を扱っていることから、「清潔」「不潔」の概念が希薄になりがちですので、注意が必要です。耳前部を十分に露出させます。特に女性の場合は毛髪が障害になりますので、キャップ等を利用して術野を確保しなければなりません。ポピドンヨード綿で、刺入部位を中心に円を描くように消毒します。その後ハイポアルコール綿で同様に消毒をします。このとき、ポピドンヨードの着色部を一層残すようにしてください。清潔部位限界の目安となります。消毒後、清潔ドレープに関節部分のみ穴を空け、カバーしてください。その上から穴あきシーツ、または丸穴ディスポーザブルシーツを術野にかぶせます。これで清潔な術野を得ることができます。なお、このとき耳介が完全に見えるようにしてください。刺入点を決める上で、特に耳珠は大変重要な目印です。 |
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穿刺点までの距離: 耳珠中点から外眼角まで仮想線を引き、その仮想線上において、耳珠中点から約10mmをA点とする。A点より、仮想線に対し垂線を下方に引き、仮想線より約1.2mmが穿刺点です。 |
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関節窩、関節頭の外形を描き、刺入点を決定します。このとき、患者様に開閉口を指示し、指で確実に関節頭、側頭骨を確認してください。 |
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1横指開口させ、下顎頭と下顎窩の間のくぼみのやや後方部が刺入点となります。刺入点から斜め上方に、関節結節後方斜面に向かって針を進めてください。22G注射針の約3分の2程度入って骨に確実に当たることを確認してください。その途中で、すっと抜けるところがあります。それが上関節腔に入った証です。 |
そこでパンピング操作を行います。薬液は生理食塩水または1%キシロカイン(エピネフリンなし)を用いてください。パンピングに用いている薬液が血液等で汚れてきたら、交換してください。このときは針を刺入したまま注射筒のみを取り外し、薬液の交換を行います。この操作を4,5回繰り返してください。 注射針を抜去した後は5分間ほど圧迫し、絆創膏を貼付します。 |
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パンピングにて左顎関節のロックがはずれた状態です。開口度は約30mmにまで回復しました。 |
パンピングにてロックがはずれた後の処置が非常に重要です。ロックがはずれた後、開口器を用いて10分くらい最大開口を維持してください。その後、下顎前方整位型スプリントの着用を2週間ほど行ってください。一旦円板が整位しても極めて再転位しやすいため、1日になんども開口を確認するよう指示してください。また、術後、感染予防に抗菌薬内服を3日程度行ってください。 顎関節症の治療は、一般歯科診療においてもっと普及すべきものと考えております。その中で、パンピングが行えれば、顎関節症治療の幅が広がります。先生方の診療において本術式を行う上で、少しでもお役に立ていただければ幸いです。不明な点がございましたらいつでもご質問ください。 |