医療従事者の方へ

口腔外科手術の基本的手技:脱臼歯牙の再植
 外力により、歯を支持する歯根膜線維が断裂して、歯槽窩から歯が脱落または植立異常をきたすことを脱臼といいますが、その程度により完全脱臼と不完全脱臼に分類されます。いずれの場合においても、いかに早く元の歯槽窩へと整復し、歯牙をしっかりと固定できるかがポイントになります。
 単独歯の脱臼で動揺の少ない場合、両隣在歯とスーパーボンドのような接着性レジンで固定するだけでも十分ですが、動揺の大きな場合にはワイヤーやチタンメッシュなどで補強した上で、接着性レジンによる固定を行っています。

1)歯が脱臼したとの連絡を受けた場合には、乾燥しないように牛乳やイオン飲料水に保存してもらい、できる限り早く来院してもらって下さい。最近では脱臼歯のあ保存液も市販されていて、学校などに置いてある場合もありますので、保存液がある場合にはその中に浸けて持ってきてもらいます。
脱臼歯牙の再植①
口腔外科疾患の診断と治療  医歯薬出版
 脱落歯に、砂や泥などの汚れが付着している場合は生理食塩水でよく洗浄します。このときに、セメント質と歯根膜を機械的に傷つけないように注意を払って下さい。
 歯根膜の損傷は、将来的な歯根吸収の原因となりますので、健康な歯根膜はできる限り保存したいものです。
2)歯牙を歯槽窩に戻して、咬合関係をよく確認してください。歯槽窩と脱臼歯がよ くfitして、本来の位置がすぐ分かる場合は良いのですが、損傷が大きく分かりにくい場合は咬合関係をよく確認して、本来の位置を予想して固定することになります。
脱臼歯牙の再植②
口腔外科疾患の診断と治療  医歯薬出版
3)ワイヤーを再植歯とその隣在歯に軽く接する様に曲げて、スーパーボンドで固定します。固定した後に、軽く力を加えてみて簡単には動揺しないことを確認して下さい。
脱臼歯牙の再植③
口腔外科疾患の診断と治療  医歯薬出版
4)最後にもう一度、咬合関係を確認して、再植歯に強い咬合力が加わるようであれば咬合調整を行って下さい。
 順調な経過をたどれば約4−6週で固定されますので、その期間に固定を除去して下さい。
 再植歯は、たとえ直後に歯髄の生活反応がなかったとしても数ヶ月後に回復することもありますので、明らかな根尖病巣を認めない場合は、1−2ヶ月経過観察したのち、生活反応を認めなかった場合に歯内治療を開始するのが良いと思います。
5)感染予防のため4−5日分の抗菌薬と含嗽剤を投与して下さい。
  また疼痛管理のための鎮痛剤を処方して下さい。
 最後に歯牙の脱臼を生じている場合、思いがけず、歯槽骨や顎骨の骨折を生じていることもありますので、注意深い診察を行い、骨折が疑われた場合には、近くの病院歯科や大学病院へご紹介ください。

参考文献: 顎・口腔領域の外傷     南山堂
  口腔外科疾患の診断と治療  医歯薬出版